2006年07月03日

絶望の回廊-2-

「げほっ・・・」
 激突し倒れた二人を空洞の鎧が取り囲む。倒れたままのスノウをかばうように前に出る。
 ペコペコはすでに事切れていた。最後の一瞬まで自分達のために動いてくれたペコペコに感謝しつつ、絶望的な状況に思考をめぐらせる。
「ろー・・・ず・・・逃げ、て」
「喋るな、傷が悪化する」
「いい、の・・・もう、無理だよ・・・」
「それ以上言うな」
 槍を構える。最後の一瞬まで・・・いや、その一瞬すらも諦めるつもりはない。
 敵の戦列がじわりと動く。一瞬の交錯に賭け、最強の一撃を叩き込むつもりでいた。しかしそのタイミングは横合いからの乱入者により起こることがなかった。
「二人とも無事!?」
 遠方から放たれた矢が、空洞の鎧を紙のように引き裂きながら突き抜ける。突破口を見出したローズは迷うことなくスノウを抱きかかえて走り出した。
 屋根伝いにシャルフィアが二人を追う。もはや戦う余裕のない二人を手伝いながら共にグラストヘイムの大正門へと走る。
 いつのまにか屋根から下りて隣を走っているシャルフィアが数十本の矢をまとめて掴む。
「っ・・・アロー・・・シャワーっ!」
 大気を切り裂いて無数の矢が飛ぶ。足止めではすまない威力にローズが驚く。
 大正門の前まで走りついたとき、そこで白い光の柱が上がった。
 周囲の空気が一瞬にして巻き上がり、息が出来なくなる。
「今のはっ・・・」
「アレスのグランドクロスだわ・・・行きましょう。一緒に連れ出すわよ!」

 グラストヘイムの空気はますます緊張を増していく。結界呪はすでに発動し、完成まで幾ばくの時間もなかった。
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2006年06月20日

絶望の回廊-1-

 魔物の海を駆け抜けるペコペコ。その姿はすでに傷だらけだった。
 騎乗用ペコペコ専用の鎧は傷だらけになり、紅い足跡が地面に残る。それでもペコペコの足は淀まない。訓練されたペコペコは最後の一瞬までも主人と共にある。
「くそ・・・数が多すぎる・・・」
「大気の精霊、風の精霊よ私の声を聞け・・・空を登り光を得て、今降り注げ・・・サンダーストーム!」
 短く早い、歌うような詠唱のあと、広範囲に稲妻が落ちる。地面を抉り魔物を吹き飛ばすそこを、ペコペコが駆け抜ける。
「落ち着いて、全部相手にする必要はないわ。そろそろ頃合だし、私たちも撤退しましょう」
「・・・逃げ切れるなら、な・・・こいつも、そろそろ限界だ」
 がしゃんがしゃんがしゃん、と空洞の鎧が響かせる足音が周囲を埋め尽くす。どれだけ吹き飛ばしても、切り捨てても、なぎ払っても、その数は一向に減らない。
「私の命はアンタに預けとくわよ。ローズ」
「やれやれ、気安く言ってくれる・・・落ちるなよっ!」
 手綱を強く握る、その主人の意思に答えるようにペコペコが雄たけびを上げる。
 右手には槍を持ち、敵の一郭をなぎ払う。そこに落ちる稲妻に僅かな退避路が出来る。
 無数に飛び交う矢と剣撃の嵐をかいくぐる。其の間にもキズは増える。そして、ついにペコペコが倒れた。
 力尽きたペコペコが速度を落とさずに倒れる。振り落とされた二人は城の壁際に激突した。
posted by 悠香璃・halfmoon at 22:47| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | ラグナロクオンライン〜イグドラシルの継承者〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月15日

闇の王と光の使徒 2

 降り注ぐ灼熱した隕石も、魔の雷すらも退け、いまだ聖騎士はそこに立つ。
 そのとなりで変わらぬ笑顔で聖職者が騎士を支えていた。
『・・・貴様、何者だ』
 その問いに、聖騎士は答えない。
『貴様等は本当に人間かっ!』
 その問いに、聖職者は答えない。
 十字剣が振り上げられる。白銀色に輝く十字はバフォメットの鋼鉄のような体毛をやすやすと切り裂き肉を抉る。
 聖職者の歌が聞こえる。突如として現れる悪魔払いの結界に、ダークロードが呻き声を上げる。
 優勢に見えた戦いは、限りなく張り詰められた糸のような状態でしかなかった。それを悟らせないために、二人は決してその場を動かない。笑みを絶やさない。
 七度目の悪魔払いの結界は彼女に極限までの負荷をかけていた。もう次の結界を構成するだけの魔力はない。
 幾度となく隕石と魔の雷を防いできた純白の鎧はすでに軋みをあげている。それでもなお、二人は逃げない。
 バフォメットが振り上げる大鎌がアレスを捕らえる。横殴りの大鎌の一撃を、アレスは腕一本で止めてみせる。鎧にヒビが入る。それでも決して揺らぐ事なくバフォメットを睨みつける。
 ダークロードの手がレインを捕まえようと伸びる。その手を癒しの奇跡と神の加護が撥ね付ける。
 やがて両者が動かなくなった頃、レインが倒れた。直接のダメージはない。精神的な負荷と疲労によるものだろう。
『・・・どうやら、やせ我慢だったらしいな』
『我らを怒らせた罪、覚悟するがよい・・・』
 魔王と呼ぶにふさわしい二対が、同時に襲い掛かる。それをアレスは受け止めた。ヒビの入った鎧は砕け散る。それでも彼は揺るがない。
「・・・レイン、もう十分だ。行け」
 その言葉が何を意味するのか、わかっていた。それでも彼女は動けない。
 一瞬の静寂。そして巨大な光の柱が巻き起こる。
 光は魔王を包み込み、雲を突き破り大地を震撼させる。
 聖騎士の捨て身の秘儀、裁きの大十字。それが意味するものをレインは知っていた。そして、動けないまま意識を失った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「今のは・・・アレスか・・・」
「ま、まさか・・・あれ・・・」
 空を貫いた巨大な光の柱を見て、レイシアとリルシェの詠唱が止まる。やがて光の柱は薄くなり、かすれて消えた。回りの誰もが、それが何なのか知っていた。
「命と引き換えの秘儀・・・裁きの大十字-グランドクロス-か・・・アレスめ」
 小さな呟きはリルシェにしか聞こえなかった。
「全員、準備はいいか!封鎖結界の陣を起動させる・・・失敗は許されん!」
 レイシアの一括に、全員が再び結界を作るための陣に復帰する。最後の一瞬、そのギリギリまで、レイシアは粘るつもりだった。
 まだ内部に残っている人のために。
posted by 悠香璃・halfmoon at 22:01| 東京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | ラグナロクオンライン〜イグドラシルの継承者〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月09日

章の一、闇の王と光の使徒

 落ちる稲妻、巻き上がる砂埃。そして悲鳴。
 グラストヘイムの大正門の前での攻防はそんな巨大な稲妻によって戦況を変えた。
 はれていく砂埃の向こうに、多数の死者を出した戦列と、その原因となる稲妻を放ったものが姿をあらわす。
『人間風情が』
『我らを甘く見たな』
 巨大な大鎌を持つ山羊の角を持つ悪魔と、闇を抱えた暗黒の魔道師が、そこにたたずんでいる。
「バカな・・・バフォメットに、ダークロードだと・・・?」
 叫ぶアレスの隣でプリーストの女性がおびえる。そのおびえもすぐに消え、アレスのとなりで震えもせずに杖を構える。
「レイン、お前は逃げろ・・・ここはオレが抑える。神官騎士団!総員退避しろ!無駄死にになるまえにだ、急げ!」
 騎士団長のアレスの声を聞き、神官騎士団が盾を構えたまま後退を始める。そんななか、アレスとレインだけが戦場に残る。
「レイン、早く行け!」
「嫌だよ」
「レイン?」
「死ぬつもりもないよ、二人で・・・生きよう、だから・・・私も一緒にいる」
 その言葉から、彼女の決意が伝わる。自分の妻にして高位神官である彼女を、ここまで心強く思ったのはアレスは始めてだった。
『愚かな・・・我らを相手に二人で挑むか』
『ならば、灰燼に帰すがいい!』
 数瞬後、巨大な隕石が二人をめがけて落下した。対するのは白銀の十字。隕石を切り裂きその光は天までも焦がす。
「オレをそこらの神官騎士団といっしょにするな・・・戦神の聖騎士の名はダテじゃない」
 白く輝く十字剣を構える。その清浄な気配に魔性の者が僅かに後退する。その隙を彼は見逃さない。
「唸れ神剣、我が眼前に相対する魔性、その一切を切り裂け。聖十字!」
 神への祈りと戦いの歌を叫び、十字剣を振るう。その軌跡が白く輝き巨大な十字となってバフォメットとダークロードを襲う。
 巻き上がる砂煙の中、手ごたえを感じたアレスは次の一撃に備える。それと同時にレインに対して献身を行う。淡い光が彼女を包む。
「神よ、憐れみたまえ!汝に祝福あれ!」
 レインが祈りを口にする。その祈りはアレスの身体を優しく包む。神による祝福と加護は魔性の者に対して絶大な力を持つ。
 砂煙がはれる。そこには、変わらぬ二対の魔性のものがいた。
『・・・少しは出来るようだな』
『ならば手加減はするまい、遊んでいるヒマもないのでな』
 そして、闇の王と光の使徒の戦いは始まった。
posted by 悠香璃・halfmoon at 21:53| 東京 ☔| Comment(2) | TrackBack(0) | ラグナロクオンライン〜イグドラシルの継承者〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月26日

プロローグ−3− それぞれの決断

「隊列を乱すな!一般市民の避難を第一に考えろ!」
 火の手の上がる戦場に、太く強く、それでいてよく通る声が響く。神官騎士団の団長と思われる男が指揮をとっている。
 グラストヘイムの北西、外に通じる門があるところが今戦場と化している。
 逃げ出そうとする一般市民の群れは門へ殺到する。それを応用に魔物が・・・騎士のナレノハテといわれるレイドリックとレイドリックアーチャー、聖職者のナレノハテと呼ばれるイビルドルイド、そして凶暴な肉食性の鼠などが大量に押し寄せている。
 それらを食い止めているのが重厚な鎧に身を包みその身を盾として市民を守る神官騎士団のパラディン部隊が食い止めていた。
「くそっ、数が多いな・・・一体どこから沸いて出た・・・」
「そんなことを気にしているヒマは今はあるまい・・・アレス・・・あの群れ、どうするのだ?」
 いつのまにか現れた黒装束の男がとなりから声を掛ける。いつもの事らしく、団長には驚いた様子もない。
「俺たちは守るのが仕事だ・・・敵を崩すのはそちらさんに任せるよ・・・刻」
「・・・心得た」
 そしてその黒装束の姿は風のように掻き消える。次の瞬間には、いくつもの個所で血飛沫が上がる。彼らが活動を開始した・・・グラストヘイムの市民はうわさにしか知らないであろう、隠密攻勢活動隊が敵の戦列を切り裂いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「敵の戦力の大半は野外に・・・圧倒的な数でありながらその統一性が取れていない・・・向こう側に指揮系統がない・・・ということはないか、こんな数が自然発生するわけないんだから・・・」
「冷静に分析してる場合じゃないだろ、スノウ!・・・逃げ回るのも、そろそろ限界なんだぞっ」
「ローズ、騎士たるものもう少し大きく構えてなさいって・・・」
「ローズはやめろ!女みたいな名前で呼ぶな!」
 激しく否定しつつもペコペコを操る手は止まらない。降り注ぐ無数の矢も、襲い掛かる幾重の剣も、2人を捕らえる事は出来ない。騎士のペコペコに一緒に乗っているのはセージの女性だった。この状況下でも彼女の思考は止まらない、よどむ事を知らない。
「北西、南東、南西、北東・・・中央は・・・うん、やっぱり・・・」
「なんかわかったのかよっ!?」
「・・・ヤツら・・・陽動だわ」
 出てきた結論は酷くシンプルで、それでいてある意味の絶望を孕んでいる。
 すでにその陽動でグラストヘイムの大半の機能はマヒし、生き残った人は国王の最後の命令によって撤退を始めていた。しかしその最後の命を2人はまだ知らない。
「・・・・・・どうする、スノウ?」
 槍が閃く。道を閉ざしていた十数匹のレイドリック達が紙をちぎるように散っていく。そのサマをみながら、スノウはしばし熟考する。
「たぶん・・・目的は王城だわ・・・王城の地下に封印されている何か・・・でも、向こうはリーシアにユリア、あとシャルフィアが向かってる・・・」
「・・・てことは・・・?」
「陽動連中を引っ掻き回す。それで撤退をしやすくなるように動きましょう・・・死ぬかもよ?」
「・・・お前と一緒なら、ソレも悪くないかもな?」
 手綱を握る手に力が篭る。次の瞬間にはペコペコは敵の中へと向かって駆け出していた。

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 木の幹をける乾いた足音だけが響く。
 立ち止まる事は許されない、負けることも許されない。それでも、ただ一つ漠然とした不安が彼女の胸を締め付ける。
「・・・リーシア、ごめんね」
「なに?いきなり」
 走る速度は一向に落ちない。それでも、言葉は続く。
「あなたの腕・・・治してあげられなくて」
「なんだ、そんなこと?・・・気にしなくていいのよ・・・とっくに諦めてたんだから」
 彼女の左腕はうまく動かない。利き腕でないのが幸いだったがそれでも彼女は弓手という夢を諦める事になった。踊り手としても、片腕がうまく動かないためにうまく踊れずに居た。グラストヘイムで随一といわれるほどの癒しの力を持つユリアにさえも、治癒できないほどの怪我・・・それがなんなのか原因すらもわからないまま今にいたる。
「グラストヘイムで一番強い癒しの力でも治せない・・・無力だよね・・・ホントに」
「今気にすることじゃないでしょう?」
「・・・・・・そう、だね・・・」
 無言のまま再び走る。
 やがてイグドラシルの幹が見え始める頃、リーシアが言う。
「私ね、昔は何度もこの腕のことを呪ってた・・・なんで動かないんだろうって・・・それで弓手になろうとした自分も無謀だとおもうけどね・・・あの頃は弓すらマトモに引けなくて・・・ホントに荒れてた事も会ったもんね」
「・・・うん、あの頃は・・・見てられなかった」
「でもね、コレのおかげで・・・ユリアと会えた、それで・・・一緒に居てくれた。もしもこの腕がちゃんと動いてたら、きっと出会えなかった・・・だから、今は気にしてないよ・・・ユリアのおかげで昔と違って普通に生活は出来る程度には動くしね」
「・・・私も、リーシアに会えてよかったよ」
 こんな会話をしていても足は止まらない。そのことに少し驚きつつ、前を見据える。新たな決意とともに、追う目標をついに見つけた。
 白く、巨大な盾を持った騎士の姿を・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「魔物を倒す必要はない!逃げ切れ、新たな土地まで!」
 逃げるために走る人々の隙間を縫って矢を射る。ソレは空を舞いおってくるレイスを的確に射落としていく。
 門からは大半の市民が逃げ、これから騎士団が城門で敵を抑える。そして、最終計画の発動に入る。
「宮廷魔術師団、前へ!封鎖結界の陣を敷け!」
 溢れる魔力の奔流はグラストヘイム全体を包みだす。それが何を意味するのか、グラストヘイムに済む誰もが知っている。
 中と外に絶対の境界線を作り出す禁呪。ソレが使われたが最後、グラストヘイムの中には入る事も出来ず、中から出る事も出来ない。何年か、何十年か、何百年かしてそれが壊れるまでの間、王国は封鎖される。
 バチバチと青白い稲妻が飛ぶ。結界を構成するべく、構成呪がグラストヘイムを空も地下も、その全域に張り巡らされていく。
「師匠・・・ホントに、やるんですか?」
「仕方がないでしょう・・・ココで封印しないと・・・国は捨てます、覚悟なさいリルシェ」
 リルシェとよばれた新米マジシャンがびくんと跳ねる。
 揺るぎもしないまま詠唱を続けるハイウィザード、レイシアに続いてリルシェももてる魔力総てを構成呪作成へと注ぐ。その魔力はレイシアに勝るとも劣らない。その事実にレイシアは内心冷や汗を掻く。
『もう少し、この子に教える時間があればよかったかしらね・・・』
 拙いながらも魔力によって強引に構成されていく構成呪を見ながら、自分の師としての未熟さを呪う。やがて魔力はグラストヘイム全域を包み終わる。あとは、発動させるだけ・・・。
 そのタイミングを、レイシアはただ見極めるべく戦況を見据える。
 やがてきっかけが現れるだろうその一瞬を見逃さないために・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 無数の数の敵を、鎧をカタールで切り裂いていく。その動きにためらいはない。
 まるで踊るかのように、存在を知られないといわれている部隊の彼女は刃を閃かせる。
「・・・一体、何匹いるの」
 カタールの切れ味が悪くなる。すでに相当の数を切り伏せていた。それでも、敵の数は減る様子を見せない。むしろ増えているようにすら感じられた。
 舞うように、ソレこそ踊っているかのように止まる事のない動き。そんな戦いを続けながら、ふと思い出した。
『そういえば、踊ってるみたいだねっていわれた事があったな・・・』
 同じ仲間でありながら、殆ど離した事のないジプシーの女性を思い出す。隣にはいつも杖を持ったプリーストが居た。名前は確か・・・
『リーシア・・・だったかな。綺麗なコだったけど・・・あのコの腕は・・・』
 あえて、思い出すのをやめた。知らなくていいことだったのに、アサシンの技術を持つ自分はそれに気付いてしまった。
 何度、プリーストの女性に言うべきか迷い、やめた事だろうか・・・。
『言っておけば、何か変わったのかな・・・』
 声に出さず、無言のままに世界を切り裂いていく。
 また会う事があるなら、今度こそ伝えよう・・・。彼女の腕が、ある特殊な薬品によって擬似的に壊死させられているということを・・・。
 やがて、グラストヘイムを青白い稲妻が包み始めた頃を彼女は頃合とみて、撤退のために走り出した。
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2006年04月16日

プロローグ-2- 裁きの矢

 7つの隕石が7本の矢に貫かれ、砕け散る。
 構成をジャマされた隕石は塵となり消え去る。ノルンはその光景を見て戦慄した。こんな事が出来るのは、グラストヘイムの精鋭の中でも一人しか居ない。
「くっ、シャルフィアかっ!」
「そのとおり・・・あンた何してンの?」
 銀色に輝く弓を携え、謁見の間の入り口からただ2人を見つめる。硬直するノルンと、動けぬ国王。その2人を見て、当然の結論に至る。
「やっぱり・・・魔物たちを手引きしたのはあンただったのね・・・ノルン・・・」
 弓に矢を番える。キリキリキリ、と弦を引く音が響く。
「そうだ、俺が手引きしたんだよ・・・こんなくだらない王国ぶち壊すためになぁっ!」
 纏う炎は激情の証なのか、幾重にも折り重なりノルンを隠す。
 それすらも、彼女…シャルフィアには何の障壁にもなりはしない。
「残念だったな、このジジイはもう手遅れだ・・・イグドラシルの幹へ続く門も・・・バケモノがいっちまったよ・・・この王国はもう終わりだ・・・諦めなっ!」
 纏っていた炎が飛び散る。周囲総てを焼き尽くすそれは、サイトラッシャーと呼ばれる無差別攻撃だ。対するシャルフィアが放つ矢はただの一本。限界まで引き絞られた弓が矢を、ただ目標に向かって飛ばす。
 矢の軌跡しか追えない、あらぬ速度で矢は飛び散る炎をかき消していく。ノルンへと向かって。

 どさっ、という音。ノルンが倒れた音が響く。空気から緊張がときほぐれていくのを感じつつ、シャルフィアが駆け寄ってくる。しかし、ノルンの言う通り、もはや手遅れだという事は解っていた。
「国王!遅くなって申し訳ありませんっ」
「よい・・・気にするな・・・もとよりそのつもりであったのだ・・・しかし・・・封印を施すのは早まったかもしれんな・・・」
「封印・・・?」
 動かぬ体を僅かに動かし視線を背後の巨大な門へと向ける。そこは今まで純粋な銀で作られ、見るもの総てに威圧感を与えてきた世界樹の華と呼ばれるものがあった。その姿だけを大きく変えて。
「・・・石に、かわっている?」
「バルムンクをつかって・・・封印を施した・・・今では決して開かぬ一枚岩のようになっておる・・・ユリアとリーシアはこの先だ・・・」
「・・・あの2人なら大丈夫です、かならず戻ってきます、だからしっかりなさってください!」
 ごほっ、ごほと国王が咳き込む。大量の血が溢れ、服を紅く染める。もはや手遅れなのはダレが見ても解る事だった。それでもシャリフィアは諦めない。
「神官騎士団の人なら救えるかもしれません。今連れてきますからっ!」
「よいのだ・・・シャルフィア・・・私はここにおいていけ・・・」
「なにを・・・王がいなければ国は成り立ちません!」
「だからだ!」
 一喝され、シャルフィアは息を飲む。瀕死の重傷の状態にあってさえ、この人は立派な王としての威厳を失わないままで居る。それが、恐ろしくもある。
「グラストヘイムは・・・この国はもう・・・滅びる。だから、シャルフィアよ・・・これが、ワシの王としての最後の命令だ・・・生き延びた者を集めて落ち延びろ・・・ココから離れたところにあたらな国を作れ・・・そして、再びイグドラシルを守る力のあるものを集めるのだ・・・世界樹を守る、その意志を絶やしてはならん・・・わかるな?」
 シャルフィアは答えられない。ただ無言で、目に涙を浮かべたまま頷くだけだ。それを見て国王は小さく微笑む。
「さぁ、ゆけ・・・遅くなれば手遅れになる・・・お別れだ・・・シャルフィア」
「・・・・・・はい、ヴァルハラで・・・お会いしましょう」
 その別れの言葉を聞いて、国王は事切れる。それを見取って、涙を拭うとシャルフィアは駆け出していた。意志を次ぐために・・・。
posted by 悠香璃・halfmoon at 02:29| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | ラグナロクオンライン〜イグドラシルの継承者〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月07日

プロローグ-1- 始まりの鐘の音

 この日、いつも朝になるはずだった修道院の鐘の音は一切響く事が無かった。
 建物の崩れる音、火の燃え盛る音、そして・・・魔物たちの軍勢の雄たけびと、人々の悲鳴・・・。
 修道院からは神官騎士団が、騎士団からは近衛騎士団が、魔物を迎え撃つために駆け出していく。
 千年王国グラストヘイムは、戦火に包まれる事となる・・・

 修道院が崩れ、騎士団は魔物に占拠され、王都は陥落した。
 それでも、人間は諦めない。生き残ったものは国を落ち延び、また戦えるものは最後の抵抗のために剣を取る。
 何者にも屈することなく、ただ己の信念を貫くために・・・。

 タッタッタッタッタッ
 荒い息遣いと止まる事の無い足音。あたりはふしぎな緑に包まれている。巨大な、余りにも巨大な植物の根を足場にして、その大樹の幹元へと向かう。二人は何も喋らない、ただ走る。

 −時刻は少しさかのぼる−

「陛下!ご無事ですかっ!」
 謁見の間、そこに王の姿は変わらずにある。その手に青白く光る神剣、バルムンクを携えて。
「ワシは無事だ・・・しかし、イグドラシルの幹への進入を許す結果となってしまった・・・」
 王の背後にある巨大な扉、それが開かれている。あたりに散らばるのは無残にも散った兵士と魔物の残骸・・・、それら総てをふみ砕いて進んでいった何者かの足跡・・・。
「ヤツはイグドラシルを枯らすつもりだ・・・頼む、ヤツを止めてくれ・・・」
「・・・解りました、私が追います。ユリアは陛下を」
「いや、心配には及ばん・・・ユリア、おぬしはリーシアとともに行け。背後は心配するな、私が食い止めよう」
 老いた王は揺るがぬ威厳を保って言う。総ての国民が絶対の信頼を寄せる国王が言うのなら、それを疑う理由は無い。それゆえに、2人は迷わずに扉の奥へと足を進める。
「・・・聖剣バルムンクよ、その身を枷とし、その意志を鍵として、今この扉を閉ざせ!」
 青白い光、次の瞬間バルムンクは巨大な扉を閉ざす閂のように張り付き、その身ごと扉を石に買えていく。
「なっ、陛下何を!?」
「ゆけ・・・どのみちこの王国はもう復活はせん・・・1000年王国などワシの手で作れるものではなかったのだ・・・しかし、役目だけは・・・イグドラシルを守る役目だけは果たさねばならん・・・だから行け・・・」
「陛下っ!」
 扉にもどろうとするリーシアをユリアが止める。その手は決して緩むことなく、彼女を離さない。
「リーシア、ココでもどれば陛下の意思が無駄になるわ・・・行きましょう」
「・・・っ!・・・陛下、どうかご無事で・・・ヴァルキリーの加護を」
「ああ、ありがとう・・・さぁ、行くが良い!イグドラシルの継承者たちよ!」
 返事は聞こえない、ただ足音だけが遠くなっていくのを聞きながら、国王はそっとつぶやく。
「・・・ヴァルハラで会おう」
 一瞬の静寂、そしてそれを破る若い男の声・・・。
「あらら、扉閉めちまいやがったよこの老いぼれ・・・さて、どうするかねぇ」
 嫌な声が響く。それが宮廷のお抱え魔術師の声であるとすぐに気付く。
「ノルン・・・貴様」
「ったく、じーさんも余計な事してんじゃねぇよなぁ? 老いぼれは老いぼれらしく・・・とっとと死んでなっ!」
 手に集まる雷球、それがユピテルサンダーであると気付くよりも速く体が電撃を受ける。肉のこげる匂いとともに、その体が揺れる。けれど倒れない。
「・・・チッ、おもったよりしぶといじゃねーかよ」
「・・・ワシを舐めておるのか若造?」
 威厳の満ちた声が響く。その声に一切の揺るぎは無い。恐ろしいほどの強い目をして、ノルンを見据える。
「ワシをダレだと思っておる?グラストヘイムを平定し、収め、民をまとめておった一国の王だぞ?民を守り、国を守り、秩序を守り、妻と娘を守ってきた。民に守られ、国に守られ、秩序と妻と娘に守られてきた一国の王だぞ?おいそれと死なぬ、貴様のような若造においそれと殺されはせぬのだ」
「・・・なら、試してみっかねぇ・・・・・・冥途の土産だ」
 冷たい声が響く。言葉は踊る、踊り、踊りて力を持ち、魔力を編んで魔法とする。
「氷の水晶、氷結の女神、水の精霊、風の意志、ゆきてまじりて踊りて遊べ!」
 突如として強烈な吹雪がまう、それも国王の周りだけに。やがて、ピシピキと音が響く。服が、髪が、皮膚が、血液が、大気が、床が、あらゆるものが凍てついていく。
「ぐっ・・・なんだ、これは・・・フロストダイバーではないなっ!?」 
「フロストダイバーの上位魔法・・・フロストノヴァ・・・ご期待の新作の味はどうだぃ?国王さんよぉ?」
 腕が、足が、服が、皮膚が、髪が・・・凍り付いていく。その吹雪はやがて収まり、四肢を凍結させられた生きた人氷柱が完成する。
「生きたまま氷付けにされる気分はどうだよ?ジジィ。あとどれぐらいで死ぬだろうなぁ?ええ?」
 ノルンが腕を振り上げると、火の玉が飛び出す。ガシャンという音とともに、左腕が砕け散る。
「ぐっ・・・ノルン・・・、それほどの才覚がありながら・・・何故闇に心を奪われるっ!」
「奪われた?違うね・・・最初から俺は闇にいただけさぁ。お前が気付かなかっただけだろ?老いぼれ」
 氷の槍が形成され、国王をめがけて堕ちる。動く事も出来ずにその身を氷柱に貫かれる、それでも彼は果てない。
「・・・愚かな、光の道もあったであろうに・・・かわいそうな事だ・・・」
「・・・ハッ、そんな道いらねぇよ・・・そろそろ死になぁっ!」
 両手にあらぬ魔力が集約する。上級魔術師にしか仕えない高位魔法、メテオストームを放つための魔力が集約と増幅を繰り返す。
「天の星、地の星、赤き煌きは幾千のつぶてとならん。礫を我が声を聞け!その身を固め岩として、燃えて盛りて降り注ぐがいい!・・・メテオストーム!」
 空中で擬似的に構築された灼熱の隕石が動けぬ国王をめがけて打ち出される。隕石の余りの高熱で世界がゆがむ、その中を無数の矢が貫いた。
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2006年04月06日

イグドラシルの継承者 プロローグ-0-

注:コレは実在の人物とは関係ありません。が、作中に使われる名前は知人から勝手に取ってきたり

もらったりしています。ご了承ください

ルーンミッドガッツ王国から西南に位置する封印城グラストヘイム・・・
そこの地下にはバルムン剣を模して作られた石で作られた剣により封印された巨大な扉がある。

−1000年前−

 千年王国グラストヘイム AM8:00
 
 ゴーン、ゴーン、ゴーン
 大聖堂に備え付けられた鐘の音が響き渡り、朝を知らせる。
 いつものように目を覚ますと、変わらぬ光景・・・となりで寝息を立てるプリーストにそっと口づけを

すると、軽くゆすって起こす。
「おはよう、ユリア」
「ん、ぅ・・・ふぁ、ぁ・・・おはよ、リーシア」
 お互いに何一つ纏わぬ姿で、もう一度口付けを交わす。変わらぬ朝の儀式はコレで終わりだった。
「ほら、早く着替えましょう。今日は王様直々にお呼び出しがあったしね」
「はふ・・・面倒だなぁ」
「こらこら、そういうこと言わないの」
 すぐに服を纏い、いつものように王城に向かう。薄い半透明の衣を纏う私と、深いスリットの入っ

た聖職者の服をまとって。

「宮廷近衛兵長ジプシー、リーシア・デュセンバーグ」
「神官騎士団長ユリア・ハーフムーン」
「二名、来城いたしました」
「うむ・・・周りの者たちは下がるがいい・・・2人だけに話がある」
 その言葉に、謁見の間にいたほかの者たちが全員退室していく。その様子をみながら、リーシアは

少し落ち着かないそぶりをしていた。ユリアはいつもの事のように気にも止めない。 
 ほどなくして部屋に三人だけになり、静寂が謁見の間を埋め尽くす。
「・・・2人とも、傍に来るがよい」
 突然の事に驚くリーシアの腕を掴むと、ユリアは何も気にせず玉座のすぐ前まで足を進める。
「ちょ、ユリアっ。近すぎだってばっ」
「どのようなご用件でしょうか?」
 リーシアの静止も気にとめずぶしつけに声を掛ける。王はそれを気にした様子も無い。
「うむ、そのぐらいでよい・・・出来る限り周りに聞こえぬようにしたいのでな・・・」
 そう言ってから王は声をひそめる。
「リーシア・デュセンバーグ、ならびに、ユリア・ハーフムーン。そなた達にイグドラシルの継承者の銘を与える。同時に、そなた達2人を中心として世界樹イグドラシルを守護する任務を与える。仲間を探してこの任務にあたれ」
 突然の事にリーシアは沈黙する。ユリアは最初から知っていたかのように、その表情に驚きは欠片にも見つけられない。
 この日から、運命は動き出す・・・1000年の時を越える運命が・・・
posted by 悠香璃・halfmoon at 22:17| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | ラグナロクオンライン〜イグドラシルの継承者〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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